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【学生CGと私:久野遥子】 最新作『化け猫あんずちゃん』インタビュー 久野遥子監督×山下敦弘監督
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最新作『化け猫あんずちゃん』インタビュー 久野遥子監督×山下敦弘監督(前編)|学生CGと私

卒業制作として制作したアニメーション作品「Airy Me」で第19回学生CGコンテスト(2013) Campus Genius Award GOLD(最優秀賞)を、同年の第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で新人賞を受賞した久野遥子さん。岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(2015)へのロトスコープアニメーションディレクターとしての参加や、マンガ作品の出版など、多岐にわたる活動を展開しています。
7月に公開されたロトスコープによる長編アニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(以下、あんずちゃん)では、自身で監督を務めました。公開を機に、共同監督の山下敦弘さんとともに制作についてお話を聞きます。

実写映画監督とアニメーション作家、二人の共同監督

久野遥子(以下、久野)
約8年にわたる制作期間のなかで、企画やシナリオライティングなどの準備段階の作業をすべて山下さんと一緒に行いました。現場に入ってからは、実写撮影を山下さんが監督して、アニメーション制作を私が担当しました。 ロトスコープという手法は実写をもとにアニメーションを起こすので、山下さんには、アニメーションと同じロケーション、同じ芝居で実写撮影をしてもらっています。実写をもとにしていないシーンもありますが、山下さんにとっては、映画一本分の実写撮影を普段の撮影と同じようにされた感覚なのではないでしょうか。
化け猫あんずちゃん

山下敦弘さんが撮影した実写映像(上)と、久野遥子さんによってアニメーション化された映像(下)
©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

最新作『化け猫あんずちゃん』インタビュー 久野遥子監督×山下敦弘監督|学生CGと私
©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
山下敦弘(以下、山下)

撮影とアニメーションで分担はしましたが、撮影の現場には久野さんも立ち合いましたね。
天気や時間帯を気にせず撮影ができるので助かりました。撮影後にアニメーションでもう一度演出しなおせるのはロトスコープならではだと思います。僕は普段の映画づくりでもあまり絵コンテを切らないので、今回も同じように、まず芝居を撮影して、編集の段階で、アニメーションになることを想定しながらカット割などを久野さんと一緒に考えました。そこから一旦久野さんにバトンタッチという流れでしたね。実写をもとにしないシーンは、カット割も含めて久野さんに考えてもらっています。

久野

編集や音入れのタイミングなど、ある程度場面がつながって見える状態になったところでまた山下さんにも見てもらって、お互いの意見をすり合わせました。

山下敦弘監督
山下敦弘さん

アニメーションでも、役者の演技が自然に見えるか

山下
そんな共同作業でしたけど、意見が違ったりぶつかったりということはなかったです。その時々でこだわりをより強く持っている方の意見を尊重して進めました。
久野
少し意見が違うところがあれば話し合っていましたね。山下さんは普段から、役者本人がそうしているかのような自然な芝居をつけていると思いますが、アニメーションの演出と考えが異なることもあります。アニメーションでは少しオーバーに見せたい場合があるのです。その「過剰」が山下さんから見て違和感が出そうなときには、表現を抑えたいという意見をもらいました。この映画のリアリティラインは山下さんの中で繊細にあるように感じました。
かれん

かりん
©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

山下

ヒロインのかりんちゃんは、原作には登場しない映画オリジナルのキャラクターなのですが、主要なキャラクターのなかでは一番普通の人間らしい、実写の役者に一番近い存在です。アニメーションになったときの彼女の仕草や表情が、実写撮影で狙った自然な芝居のように見えるかどうかは、一番こだわったところかもしれません。とはいえ出てきたものがよかったので、さほど意見をいう必要もなかったのですが。

久野
それはよかったです(笑)。
山下
音声も、撮影で録ったものを結構使いましたね。
久野
そうですね。ロケーションや時間、居合わせた人数などが声のテンションをつくるので、撮影のときに録った声が一番シンクロするのです。撮影からアフレコまでに期間が開くので役者も感覚を覚えておくのが難しいということもありました。 とはいえ、アフレコでよりニュアンスが出て、よくなった場面もありましたよね。かりんちゃん役の五藤希愛さんは、撮影時より成長していることもあってかアフレコの方が良い!となったシーンもたくさんありました。
久野遥子監督×山下敦弘監督

久野遥子さん

「Airy Me」からつながったフランス・MIYUとの協働

山下
準備段階では、最初の2〜3年は定期的に皆で集まって脚本の内容を詰めながら、出資してくれるところを探していました。国内で見つけるのは難しかったですね。
久野
原作は知名度もさほど高くなく、派手な画が期待できるわけでもありませんでしたから、完成形を思い描きづらい作品だったと思います。当時はまだ、岩井澤健治さんの『音楽』(2019)[1] も公開前で、ロトスコープによる長編アニメーション映画というものも想像が難しかったでしょうね。
山下
結果的にはフランスのMiyu Productionsが共同制作というかたちで入ってくれて、企画が実現できました。MIYUが久野さんに声をかけてくれたのですよね。本当に助かりました。
久野
「Airy Me」で私に興味を持ってくれて、一緒に何かしたいと連絡をもらったのです。まったくタイプの異なる作品なので不安もありましたが、あんずちゃんの脚本を読んで「すごくいい、やろう」と言ってもらえて。そこからはいい進み方をしたと思います。

久野さんが卒業制作として制作し、その後数々の賞を受賞した作品「Airy Me」
©2013 Kuno Yoko All Rights Reserved.
アニメーション:久野遥子|音楽:「Airy Me」Cuushe

後編はこちら
プロフィール
アニメーター、漫画家、映像作家
久野 遥子
KUNO Yoko
久野遥子

短編アニメーション作品「Airy Me」が第19回学生CGコンテスト(2013)Campus Genius Award GOLD(最優秀賞)、同年の第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を始め多くの賞を受賞。海外映画祭での上映にて一躍注目を集め、岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』(15)にて23歳という若さでロトスコープディレクターに抜擢。その後もアニメーション作家として活動する傍ら、商業アニメーションの分野でも頭角を現す。自著『甘木唯子のツノと愛』にて第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を獲得するなど、アニメーションのみならずイラストレーター、漫画家と多方面で活躍。山下監督とは、本作準備中に手がけた『東アジア文化都市2019豊島PR映像』(短編)にて初タッグを組む。本作が長編初監督作品となる。

映画監督
山下 敦弘
YAMASHITA Nobuhiro
山下敦弘監督

1976年生まれ、愛知県出身。大阪芸術大学卒。『どんてん生活』(1999)、『ばかのハコ船』(2003)、『リアリズムの宿』(04)と“ダメ男三部作”をとっかかりに05年『リンダ リンダ リンダ』がスマッシュヒットを飛ばし、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞などを受賞。キャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立していく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。その後も、宮藤官九郎脚本『1秒先の彼』(23)や野木亜紀子脚本による『カラオケ行こ!』(24)など。本作が長編アニメーションの初監督作品となる。

『化け猫あんずちゃん』

2024年7月19日(金)公開
監督:久野遥子/山下敦弘
原作:いましろたかし『化け猫あんずちゃん』(講談社 KCデラックス 刊)
キャスト:森山未來/五藤希愛/青木崇高/市川実和子/鈴木慶一/水澤紳吾/吉岡睦雄/澤部 渡/宇野祥平
制作プロダクション:シンエイ動画×Miyu Productions
脚本:いまおかしんじ
音楽:鈴木慶一
編集:小島俊彦
キャラクターデザイン:久野遥子
作画監督:石舘波子/中内友紀恵
美術監督&色彩設計:Julien De Man
色指定:横井未加
コンポジット開発:Guillaume Cassuto
撮影監督:牧野真人
CG監督:飯塚智香
音響監督:滝野ますみ
撮影:池内義浩
録音:弥栄裕樹
スタイリスト:伊賀大介
美術:龍田哲児
助監督:安達耕平
ラインプロデューサー:植野 亮
実写制作協力:マッチポイント
主題歌:「またたび」佐藤千亜妃(A.S.A.B)
プロデューサー:近藤慶一/Emmanuel-Alain Raynal/Pierre Baussaron/根岸洋之
製作:化け猫あんずちゃん製作委員会
配給:TOHO NEXT

インタビュー・構成:言問
撮影:栗原 論

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