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ゼロからアメリカで積み上げた「自分に向いてる」CGアニメの仕事(後編)

2024年11月、東京新宿にて開催された「Tokyo Anim Unite(東京アニムユナイト)」。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで活躍するアニメーターなど、多彩なクリエイターをゲストに迎え、講演や展覧会、ポートフォリオレビューなどのさまざまなイベントを実施しました。「プロ、アマチュア問わず、クリエイションを愛するすべての人が気軽に交流できる場を」と本イベントを企画したのが、今回のゲストであるアニメーター、ヨーヘイ(小池洋平)さんです。アニメーションも英語も、すべて25歳で渡米後に学んだというヨーヘイさん。その独自のロジックで「楽しく」継続し積み重ねてきた、輝かしい軌跡とその背景をお聞きします。

後編では、前編でうかがった制作活動と並行し、ヨーヘイさんが渡米後ずっと継続しているオンラインスクールについてお聞きします。

在学中からはじめた、いい学びの「おすそ分け」

「Anitoon Academia(アニトゥーンアカデミア)」のお話もお聞かせいただけますか。

YouTubeチャンネル「AnitoonTube」をスタートしたのが2013年ですね。まだ美大に通っていた頃です。当初は「バウンスィングボール(跳ねるボール)」など基本の技術の解説や、Mayaでのアニメーション制作の方法など、自分が学んだことを反復するチュートリアルのような内容で、もちろん無料で公開していました。というのも、自分が大学で受けたアニメーションの教育がとてもよかったので、同じことを日本語で教えるところがあったらと思ったのです。当時は探しても見当たりませんでした。 動画をつくる時には、日本でPOV-Rayに触れた時のテキストを意識していましたね。とても丁寧でよかったのです。
AnitoonTube

YouTubeチャンネル「AnitoonTube」にはヨーヘイさんが解説するさまざまなチュートリアル動画が

ヨーヘイ(小池洋平)さん
ヨーヘイさんが大学時代「一度も制作の段階を見失わなかった」という、POV-Rayの参考書「POV-Rayで学ぶ実習コンピュータグラフィックス」。小室日出樹著。 写真は同著者でCG-ARTSが編集・発行した『はじめてのCG』(2005、CG-ARTS)

「教えてほしい」の声に応えて、2つのクラスを用意

YouTubeを経て、その後生徒に直接教えることになるのでしょうか。

そうですね。ブログやTwitterに「教えてもらえないか」というコメントをいただくようになりました。最初はお金をもらうのもなんだからと、Zoomで相談会のようなものを何度かやって。ニーズがあることがわかったので、ブログで「◯月◯日から12週間の授業をします」とポストしたら、9人の枠が3、4時間で埋まりました。Zoomでの開講で受講料も安く、700ドルくらいだったと思います。そんなスタートでしたね。 はじめのうちは学んだことのおすそ分けのような感覚でしたが、自分なりに工夫するうちに、少しずつ合理的な教育体系ができてきたと思います。今はMayaの基本操作を無料公開の動画で学んでもらった上で、作品をつくるための初級クラスと、その次のアドバンスクラスの2つを用意しています。初級は僕がつくったチュートリアル動画を教材に、プロのアニメーターになった僕の教え子たちが教えています。基本的にはチュートリアル動画を見て作品を制作し、できあがったものを先生に見せてフィードバックをもらう流れです。 僕は割と優しく伸ばすスタンスで、その影響もあり教え子たちも優しく教えてくれます。受講料にも気を配っています。同じ内容をアメリカのオンラインスクールで学ぼうとしたら2.5倍かかりますからね。「バイトでギリギリ稼げる受講料」が僕のテーマです。そうでないと社会格差が生じてしまうので。
Anitoon Academia
Anitoon Academiaのトップページ
受講生による作品ショーケース(2024)

一応利益はあるものの、本業にできるほどではなく、かといって仕事をしながら続けていくのもなかなか大変です。実は生徒の到達度によって受講のお断りもしています。利益を考えれば誰でもウェルカムにした方がいいのかもしれませんが、自己投資を無駄にしないためにも必要なことだと思っています。今のところ半分趣味ですね。教えるのが好きですし、学生の頃にこんなスクールがあったらよかったなというものができあがっていくのが楽しいのです。
それに、今回CG-ARTSさんとTokyo Anim Uniteでご一緒できたのはこの活動を継続しているからだと思います。この活動への投資はこういったかたちでペイオフされているのだと思っています。

日本のIPでハイパーリアルなCGアニメーションを

今後の展開について、日本のコンテンツに興味をお持ちのようですね。

日本のマンガコンテンツは世界一、世界からしたら金塊です。ヒーローもののジャンルの縛りがあるアメリカンコミックと違って、テーマも表現も幅広い。さらに今や、世界の投資家までもが日本のコンテンツで育ってきている時代です。イーロン・マスクだってアニオタです。これから先、日本のIPが世界のエンタメを席巻することは間違いないと思っています。
僕の次の目標は日本とアメリカでチームを組んで、日本のIPでハリウッドクオリティのCGアニメーションをつくることです。日本の2Dアニメはすでにピークの域に達していると思いますが、ハイパーリアルなCGアニメーションはまだ飛躍の可能性が十分ある。僕は三浦建太郎さんのダークファンタジー『ベルセルク』が大好きなのですが、ブリザードのシネマティッククオリティで、最高のルックでCG映画にしたら、とんでもない作品ができるのではないかと思っています。あるいは奥浩哉さんのSFアクション『GANTZ』も面白そうです。
そうした作品づくりを志したとき、いいものをつくるにはまず大きなバジェット、つまりは海外の投資家が必要です。さらにハリウッド映画などで活躍しているような、クオリティコントロールができるスーパーバイザーも必要でしょう。そのもとで、日本の若いアニメーターたちを雇い育てるのです。
作品へのリスペクトがある投資家と、アメリカと日本の両制作チーム、日本のIPホルダー、その三角形がうまく機能すれば、すごくいいものがつくれる。日本とアメリカを橋渡ししてチームビルディングをする人間が必要なわけですが、アメリカでアニメーションのキャリアを積み、日本で日本のコンテンツと育ってきた自分は、両国を繋ぐチームをつくる人間として適任なのではないかと思っています。
コロナ禍によってリモートワークが常識化した今だからこそ、実現可能なんじゃないかと思っています。

前編はこちら
プロフィール
CGアニメーター
ヨーヘイ(小池 洋平)
KOIKE Yohei
ヨーヘイ(小池洋平)

日本初アニメーションオンラインスクールAnitoon創設者。
カリフォルニアを拠点としてアニメーターとしてゲーム、映画の両業界の作品に携わってきている。ハリウッド業界におけるアニメーション技術を日本国内に共有することを10年間続けている。Tokyo Anim Unite主催者。
代表作に、『オーバーウォッチ短編映画集』(ブリザード・エンターテイメント)、『ディアブロⅣ』(2023、シネマティック ブリザード・エンターテイメント)、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(2022、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ)、『ウィッシュ』(2023、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ)

構成:言問(こととい)
撮影:栗原論

公開日:2025年2月17日

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