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折り紙×CG ディテールへのこだわりが行き着いた誰もみたことのない映像 金森 慧×三谷 純(前編)|学生CGと私

第29回学生CGコンテストでは、個性的なキャラクターと世界観、ダークユーモアが印象的な作品『Tomatoes』が優秀賞、書道と流体シミュレーションを融合させた『舞』が入選を果たした金森慧さん。新作『Origami / 折紙』は、日本人の学生作品として16年ぶりにSIGGRAPH 2024のElectronic Theaterで入選、今夏デンバーで初国際上映されました。
本稿の前編では金森さんに、一人のクリエイターから生まれたとは思えないような多彩な作風や新作について伺います。
後編では独自の折り紙研究で、『シン・ゴジラ』などのエンターテインメント作品にも協力する筑波大学システム情報系教授、三谷純先生が登場! 「折り紙×CG」の第一人者をお迎えし、より専門的な観点を深掘りする対談をお届けします。

和の文化に親しんだ小学生〜高校生時代

――『舞』『Origami / 折紙』と和のモチーフが続きますね。その日本的な主題が海外でも評価を得ている印象です。

折り紙は小学生の時から、書道は中学高校と6年間親しんでいました。もともと興味を惹かれる分野なのだと思います。海外ウケを狙っている部分もありますが(笑)。『舞』の作中の文字は実際に自分で書いたものです。 折り紙にはいくつかの流派のようなものがあります。僕が小学生の時に親しんでいたのは、超複雑系と呼ばれる、神谷哲史さんがその第一人者として知られるスタイルで、本を読んで自分でも挑戦していました。5〜6年生の頃にはそれまで学んできた折り方を応用してオリジナルも折れるようになって、「スター・ウォーズ」シリーズに登場するキャラクターや宇宙船などを折って遊んでいました。でも、折り紙は個人的な趣味として、書道も中高での活動にとどめていて、SNSで表に出すことはありませんでした。
金森慧さん

金森慧さん

CGとの出会い

――その個人的な楽しみをCGで表現しようと思われたのはなぜですか。

「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」シリーズなどのハリウッド映画が好きで、そのCG技術に興味がありました。調べる中で、無料で使えるCGソフト、Blender(ブレンダー)に出会ったのが高校2年生の時です。
少し触ってみたら、構造が折り紙に似ていて驚きました。例えばUV展開の概念は、折り紙の展開図に似ています。
僕は完璧主義で、手で折ると辺や角がピッタリと揃わないのが気になってしまうのですが、CGなら数値で設定すれば正確に揃う。その気持ちよさにも惹かれました。これまでの折り紙の鍛練はCG制作のためにあったのかと思うくらい、つながる部分がたくさんあったのです。
その後デジタルハリウッド大学に入ってからはMaya(マヤ)とHoudini(フーディニ)を学んで、卒業制作の『Origami / 折紙』は主にその二つのソフトで制作しています。

学生CGコンテストでの受賞

――学生CGコンテストに応募された経緯を伺えますか。

CG系のコンテストを調べるなかで存在を知って、ゼミのグループ制作のショートフィルム『Tomatoes』と、一人で自主制作していた『舞』 の2作品を応募しました。優秀賞と入選をいただきました。 クリエイターとのつながりも増えて、当時まだ小学生で受賞した蓬田悠太くん(ゲーム&インタラクション部門で奨励賞)との出会いは印象的で、その後も連絡を取り合っています。 『舞』は2年ほどかけて地道につくった作品です。書道の筆を洗う時、流しに墨が広がりますよね。あの感じのままに字が書けたら……。CGを学んだらそんな表現もできるのかな、と以前から思っていました。大学2年生ごろにようやく自分の技術が追いついてきて、着手しました。

――応募や受賞はご自分にとってどんな意味がありますか。

大学で学んでいると、チュートリアルを参考にしたような実験的な制作物は溜まっていきますが、作品と言えるものはなかなかできません。コンテストへの応募はそれが区切りになって、人に見せられる作品まで仕上げることができます。 受賞は純粋に自信になりますね。最初に応募したコンテストは、X(旧Twitter)にコンテスト名のハッシュタグをつけて作品を投稿するタイプのものでしたが、800ぐらい「いいね」がついて、コンテストでも準優勝と、たくさん評価いただけたことに驚きました。

第29回学生CGコンテスト映像&アニメーション部門で優秀賞を受賞した『Tomatoes』

第29回学生CGコンテスト映像&アニメーション部門で入選した『舞』

新作『Origami / 折紙』のリアリティ

――『Origami / 折紙』で、いよいよ折り紙のモチーフに取り組むことになりますね。

大学4年生の春から技術的な検証はコツコツ重ねていましたが、制作に本腰を入れられたのは10月から。そこから1月の提出に間に合わせるという過酷なスケジュールでしたが、卒業制作で最優秀賞をいただくことができました。SIGGRAPHで上映されたのは大学に提出後さらにブラッシュアップしたものです。 『Origami / 折紙』では、ハサミを使わずに、正方形から折れる形という二つの条件で、実際につくれる形しか画面に映さないとことにこだわりました。折り紙をモチーフにした既存のCG作品には、折り紙っぽいというだけで構造的にはたいてい誤魔化しがあるんです。普通の人が見ても何とも思わないと思いますが、僕は腹を立てていました(笑)。 そう言いながら、自分もこの作品の前に、折り紙のカエルがぴょんぴょん飛ぶCGをつくってSNSにアップしたのですが、あれは技術が追いつかず、実は外見だけそれっぽくつくっているもので『Origami / 折紙』のカエルとは全く違います。 実際の折り紙のカエル、一番多い部分で折り込まれた紙が24枚重なっています。『Origami / 折紙』のカエルはその目に見えない中の構造も全部モデリングして、さらに紙の透け感なども表現しています。
折り紙のカエルがぴょんぴょん飛ぶCG
SNSにアップされた短い動画。折り紙のカエルが飛び回る
技術的なこだわりに加えて、コンセプトの面ではイギリスの折り紙作家、ポール・ジャクソンさんの思想に影響を受けました。 彼は「折る」という行為が持つ意味を広く捉えていて、人の身体の動きやDNAの構造、山脈や谷など自然界の変容に至るまで、折るという行為は自然の事象を象徴するものだと言います。折ることが持つ意味の深さに共感しました。 折り紙は何も傷つけず、折るという行為だけで形を生み出し、また元の正方形に戻すことができる。この作品では、土から生まれて土に還る自然の循環を、折り紙の思想に重ねました。

SIGGRAPH 2024 Electronic Theaterで入選した『Origami / 折紙』

実際の紙でつくったキャラクターを持参。形状のこだわりなど、実物を手に語った

後編は近日公開予定!

プロフィール
CGアーティスト
金森 慧
KANAMORI Kei
金森慧さん

2001年 東京都生まれ。デジタルハリウッド大学2024年卒業。第29回学生CGコンテストでは、書道と流体シミュレーションを融合させた『舞』が入選、個性的なキャラクターと世界観、ダークユーモアが印象的な作品『Tomatoes』が優秀賞。同作品が第1回”三次元無双“3DCGコンテストで1位と3位を受賞。卒業制作『Origami / 折紙』は、日本人の学生作品として16年ぶりに世界最大のCGの祭典“SIGGRAPH 2024 Electronic Theater”で入選、米国アカデミー賞主催の“第51回学生アカデミー賞”にノミネートされた。

筑波大学システム情報系 教授
三谷純
MITANI Jun
三谷純先生

1975年 静岡県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。主な研究テーマは形状モデリング、計算幾何学、計算折紙など。日本折紙学会評議員、日本図学会、情報処理学会など正会員。映画『シン・ゴジラ』(2016)、『デスノート Light up the NEW world』(2016)、アニメ『正解するカド』(2017)に登場する折紙のデザインに協力。主な著書に『曲線折り紙デザイン(日本評論社)』などがある。

インタビュー・構成:言問(こととい)
撮影:栗原 論

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