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左から、三谷純さん、金森慧さん
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折り紙×CG ディテールへのこだわりが行き着いた誰もみたことのない映像 金森 慧×三谷 純(後編)|学生CGと私

第29回学生CGコンテストでは、個性的なキャラクターと世界観、ダークユーモアが印象的な作品『Tomatoes』が優秀賞、書道と流体シミュレーションを融合させた『舞』が入選を果たした金森慧さん。新作『Origami / 折紙』は、日本人の学生作品として16年ぶりにSIGGRAPH 2024のElectronic Theaterで入選、今夏デンバーで初国際上映されました。
本稿の前編では金森さんに、一人のクリエイターから生まれたとは思えないような多彩な作風や新作について伺います。
後編では独自の折り紙研究で、『シン・ゴジラ』などのエンターテインメント作品にも協力する筑波大学システム情報系教授、三谷純先生が登場! 「折り紙×CG」の第一人者をお迎えし、より専門的な観点を深掘りする対談をお届けします。

 

異なる方向性でそれぞれに突き詰める「折り紙×CG」

金森慧(以下、金森)

小学生のころから、三谷先生のお名前や作品は存じ上げていました。弧の描き方が印象的な美しい造形で、折り紙にこんな世界があるかと驚きました。先生がオンラインで提供されているシミュレーションソフトも触ったことがあります。
三谷先生は、ハサミは使わないけれど正方形にはこだわらないスタイルで、曲線による造形が特徴的ですよね。

三谷純(以下、三谷)

そうですね、それに僕の場合は糊付けもしません。実は手で折り紙を折るのは得意ではなく、コンピュータとカッティングプロッターがないとダメな人間なんです(笑)。
僕の制作はソフトウエアをつくることから始まります。紙でつくれる形というのは制約がとても大きく、どこかをいじればおのずと残りの形も決まってしまうところがあります。ソフトウエア上でパラメーターを変えることで完成形や折り図のシミュレーションをして、カッティングプロッターで紙に折り線をつけて折ります。
CGはポリゴンという厚みのない平面で立体を表しますが、折り紙も厚さはほぼ無視できて、立体の表面だけで造形します。数理モデルと物理モデルが近いことに面白みを感じています。実際に折り紙を折って、CG映像でリアルに再現される金森さんと、コンピュータありきで生み出した造形を実際の紙で再現する自分。方向性は逆ですが、折り紙とCGに親和性を感じているところは共通していると感じています。

三谷純先生

三谷純先生

三谷先生の作品の数々

三谷先生の作品の数々。カッティングプロッターで付けた折り目に沿って折るが、「僕以外の人が折るのは難しい」というほどその形状は複雑

とても真似できない!

三谷

金森さんの新作『Origami / 折紙』にはすごく驚きました。私もバックグラウンドとしてはCGの人間ではあるものの、あれほどの作品をつくったことはありませんし、つくれる気もしません。紙のような薄い素材に質感を持たせつつ、折った状態を再現するのは本当に難しい。エンジニアの研究課題としては、いかに手を抜いてそれっぽく見せられるか、いかに自動化するか、あるいは数学的にどう解くかなどを面白がってしまうのですが、金森さんは労を惜しまず、努力と愛情と熱意でやりきっている。

金森慧さん

金森慧さん

伸びない布を紙としてシミュレーション

三谷

薄い紙同士を重ねて動かすと、計算上は互いに突き抜けてしまいそうですが、そういったことは全部手作業で調整されているのですか。

金森

紙同士がぶつからないように、また紙らしい動きをつくるために、CGのキャラクターの服に使われるような布のシミュレーションを使いました。伸び縮みしない設定にすることで紙と同じような性質を持たせて動きをシミュレーションできるのです。

三谷

なるほど。例えば『Origami / 折紙』のクライマックスで、太い幹が2本絡み合って桜の木になりますが、このシーンはシミュレーションベースなのですか。あるいはキーフレームを打って地道に調整しているのでしょうか。

金森

この形状のベースになっているのは「ジャバラ折り」という、折り紙ではよく使われる手法なのですが、二つのジャバラ折りのモデルを用意して、それぞれシミュレーションで変形させています。ただ、シミュレーションは全体ではなく部分的にさせて、その間を破綻なくつなぎ合わせられる仕組みをHoudiniでつくって仕上げています。というのは、ここでは単に変形しているというだけではなく、最後の見せ場として、木が決めポーズをとっているかのように演出したかったのです。紙でできることしかしないというのは大前提ですが、そのなかで、演出の意図を組み込むために手作業でキーフレームを打ってアニメーションしている部分も多くあります。

金森さんが演出にこだわったという一場面。木の幹がダイナミックにその枝を前後に回転させる

折り目に厚みをもたせる

三谷

紙の折り目はどうされているんですか。紙は伸び縮みしないというお話がありましたが、とはいえ、折り目の部分では紙の内側は圧縮されて外側は伸びてということが起きていると思います。単純な幾何学モデルとして数学的に扱うのは難しい物理現象です。

金森

折り図としては紙の折り目は一本の線で表すものなのですが、折り目にも厚みを持たせるために、一つの折り目をつけるのに最低3本の線を入れています。3本で厚みを持たせて、2枚重ねて折る時には外側はさらに5本に増やすなどして、厚みが増えるたびにエッジの数を増やしてモデリングしました。
あと、折り目だけを用意しても山折りか谷折りか、あるいは重なり方のパターンなども可能性が多くてシミュレーションのコントロールが難しかったので、折り上がったものを先に用意して逆再生するという方法を取ったところもあります。実は一つの映像のなかで、常に再生と逆再生が入り混じっているのです。

三谷

やはり素晴らしいことをされていますね。今のお話は単純な一本の折り目のお話でしたが、折り目が交差するときの頂点はおそらくもっと複雑なことをしてらっしゃるのでしょうね。
ちなみに、カエルのモデルのポリゴン数はいくつくらいですか。

金森

パッと出ませんが……10000近くあると思います。

三谷

厚みまで考慮するとそういう数字になるのですね。おそらく、一般的な折り図で折り紙研究をしている人は、「50くらいでつくれるでしょ」と想像すると思いますよ。

多くの人の目に触れて可能性を探る

三谷

この作品の凄さが本当の意味でわかる人は少ないかもしれませんが、先ほどお話に出たポール・ジャクソンさん、私は親しくしていただいていているんですよ。ぜひ金森さんの作品を紹介したいです。また折り紙コミュニティにも顔を出してもらいたい。折り紙をわかっている人ほど驚く作品だと思います。

金森

ぜひお願いします。CG分野の方々だけじゃなく、折り紙コミュニティの方々にも見ていただきたいです。

三谷

大手制作会社から声がかかってもおかしくない力量をお持ちだと思いますが、今後はどのように考えてらっしゃるんですか。

金森

今一番人生を悩んでいるところです(笑)。ハリウッド映画のCGアーティストを目指していたのですが、あちらのスタジオは基本的に分業の世界です。こうして作品をつくり出したら、モデラーなどひとつの役職に絞るイメージが湧かなくなってしまって。今は例えばドラマのオープニング映像など、小規模でもクオリティの高い映像制作に興味が湧いています。『Origami / 折紙』など、これからいろんな方に自分の作品を見ていただいて、可能性を探っていけたらと思います。

前編はこちら

プロフィール
CGアーティスト
金森 慧
KANAMORI Kei
金森慧さん

2001年 東京都生まれ。デジタルハリウッド大学2024年卒業。第29回学生CGコンテストでは、書道と流体シミュレーションを融合させた『舞』が入選、個性的なキャラクターと世界観、ダークユーモアが印象的な作品『Tomatoes』が優秀賞。同作品が第1回”三次元無双“3DCGコンテストで1位と3位を受賞。卒業制作『Origami / 折紙』は、日本人の学生作品として16年ぶりに世界最大のCGの祭典“SIGGRAPH 2024 Electronic Theater”で入選、米国アカデミー賞主催の“第51回学生アカデミー賞”にノミネートされた。

筑波大学システム情報系 教授
三谷純
MITANI Jun
三谷純先生

1975年 静岡県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。主な研究テーマは形状モデリング、計算幾何学、計算折紙など。日本折紙学会評議員、日本図学会、情報処理学会など正会員。映画『シン・ゴジラ』(2016)、『デスノート Light up the NEW world』(2016)、アニメ『正解するカド』(2017)に登場する折紙のデザインに協力。主な著書に『曲線折り紙デザイン(日本評論社)』などがある。

公開日:2024年10月28日

インタビュー・構成:言問(こととい)
撮影:栗原 論

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