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【学生CGと私:久野遥子】 最新作『化け猫あんずちゃん』インタビュー 久野遥子監督×山下敦弘監督
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最新作『化け猫あんずちゃん』インタビュー 久野遥子監督×山下敦弘監督(後編)|学生CGと私

卒業制作として制作したアニメーション作品「Airy Me」で第19回学生CGコンテスト(2013) Campus Genius Award GOLD(最優秀賞)を、同年の第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で新人賞を受賞した久野遥子さん。岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(2015)へのロトスコープアニメーションディレクターとしての参加や、マンガ作品の出版など、多岐にわたる活動を展開しています。
7月に公開されたロトスコープによる長編アニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(以下、あんずちゃん)では、自身で監督を務めました。公開を機に、共同監督の山下敦弘さんとともに制作についてお話を聞きます。

前編はこちら

フランスのアニメスタッフはアーティスト気質

久野遥子(以下、久野)

日仏共同制作となったアニメーション制作のなかで、作画監督を務められた石舘波子さん中内友紀恵さんは、学生CGコンテストの受賞者[2]です。MIYUには背景美術と、キャラクターの色設計、コンポジット開発[3]などを担ってもらいました。
日本のスタッフには職人的な方が割と多いのですが、フランスのスタッフはアーティスト気質の方が多いと感じました。私のアイデアももちろん尊重しながら、積極的にいろいろな提案をくれるのです。自分だけではつくれないような色味や背景のルックがどんどん出てきました。

[2]
石舘波子さんはアニメーション作品「わたしのトーチカ」で第27回学生CGコンテスト(2021)アート部門優秀賞を受賞。中内友紀恵さんはアニメーション作品「祝典とコラール」で第18回学生CGコンテスト優秀賞受賞。

[3]
複数の素材の合成作業やカメラワークの設定、エフェクトの追加など。

©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

「地獄にいるお母さんは罪人なのか」

山下敦弘(以下、山下)

国や宗教によって受け取り方が違うのも興味深かったですね。特に違ったのは地獄の解釈です。フランスの解釈は日本よりもすごく重い。「地獄にいるということは、お母さんは罪人なのか」と。

かりんの亡くなった母親、柚季
©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

久野

それは私も何度も聞かれました。この作品をつくるにあたって調べたのですが、日本の近世的な女性観が影響された仏教では、女性は血を流すからだとか、子どもを産まないと落ちるだとか……、女性が地獄に行かないルートはほとんどないのだそうです。ただ私としてはその宗教観を強調したいのではなく、かりんちゃんから見れば理想のお母さんでも、一人の人間がいろいろな面を持っているのは当然のこと。その広がりという意味では、お母さんが地獄にいてもいいのではないかと思いました。それは制作段階からMIYUにも伝えていたことです。
MIYUのプロデューサー二人に脚本もしっかり見てもらっていたのですが、実は脚本の段階でNGが出た部分もありました。当初はかりんちゃんが、お母さんの骨壷を探すストーリーを考えていたのです。「骨を見つけて持って帰りたい」と。でも「それは怖すぎる」と言われて、実現できませんでしたね。

©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

久野遥子さん

8年の制作期間中に積んだ経験と進化

山下
ロトスコープという手法を僕はこの企画で知ったのですが、企画を進め始めて1、2年した頃に『東アジア文化都市2019豊島PR映像』のお仕事を土居伸彰さんから久野さんがもらって、あんずちゃんもあることだし、一度あんずチームで、ロトスコープでつくってみることにしたのです。制作としてはそれが初めての経験になりました。あのときは最初から最後まで久野さん頼みでしたが、豊島区の企画があったことで、やり方をある程度掴んだ状態で長編に挑めたと思います。 面白いのは、同じロトスコープという手法を使いながらも、この8年のなかで久野さんの表現が進化していることです。豊島区のPR映像、その数年後につくったあんずちゃんのパイロット版、そして完成したあんずちゃん。それぞれ見比べると、ちょっとずつ変わっていますよね。

久野さんと山下さんがあんずちゃん準備期間中に初めてタッグを組んで制作した『東アジア文化都市2019豊島PR映像』

久野
落とし所が少しずつ変わりましたね。もちろん実写ありきではあるのですが、描き手によって表現の幅が出せる手法だと思います。 私が一番好きなロトスコープの作品も、その幅を感じさせてくれるものです。「When the Day Breaks(ある一日のはじまり)」[4]というカナダの短編作品で、豚の女の子が主人公なのですが、ジャガイモの皮を剥いて皮の方を食べたりするのです。動きがとても人間らしい分、そういった場面に意外性があって面白みを感じます。独特な質感があって、一見ロトスコープに見えないのですが、こんな表現ができるのだと驚きました。
[4] 女性作家ユニット、ウエンディー・ティルビー/アマンダ・フォービスによる9分40秒の短編アニメーション作品。1999年発表。

山下敦弘さん

アニメーション制作に挑戦するクリエイターへのアドバイス

久野
アニメーションづくりには絵コンテが必要なので、まずは絵コンテを描くことを訓練のようにやる場合もあるのですが、実際に画をつくり始めてみると、できると思っていたことができない場合もあります。想像と実際にズレが生じることは結構あるのです。ですので、ごく短い場面でも、一度実際に描いて出力してみて、トライアンドエラーを経験することが大事だと思います。ルックを立派に整える必要はありません。私も紙と色鉛筆で描いていた期間が長かったです。 つくってみると、自分には何ができて何が難しいのかがわかると思います。そこでちょっと絶望を味わうこともあると思いますが(笑)、かたちにすることに慣れておくと、つくることのハードルが低くなると思います。
山下
人に見せるって恥ずかしいですよね。僕がやっている実写映画は一人ではできず、人を巻きこんでやらざるを得なかった。大抵は、撮影して編集してみると満足のいくものにはなっていないのです。でもとにかく完成させて上映することで、恥はかくけど信頼を得る。そんなつもりでやっていました。完成させないまま、人の作品に口だけ出すようなことだけはしたくないと思っていました。
久野

人に見せるという点では、コンテストなどに出してみるのはとてもいいと思います。賞をねらって作品をつくるわけではないけれど、出してみることで、自分では気づいていなかったような、作品のいいところやすごいところを見つけてもらえる。学生の頃はとくに、まだ自分では気づいていない部分が多いので、自分を知るきっかけになると思います。

©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

前編はこちら
プロフィール
アニメーター、漫画家、映像作家
久野 遥子
KUNO Yoko
久野遥子

短編アニメーション作品「Airy Me」が第19回学生CGコンテスト(2013)Campus Genius Award GOLD(最優秀賞)、同年の第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を始め多くの賞を受賞。海外映画祭での上映にて一躍注目を集め、岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』(15)にて23歳という若さでロトスコープディレクターに抜擢。その後もアニメーション作家として活動する傍ら、商業アニメーションの分野でも頭角を現す。自著『甘木唯子のツノと愛』にて第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を獲得するなど、アニメーションのみならずイラストレーター、漫画家と多方面で活躍。山下監督とは、本作準備中に手がけた『東アジア文化都市2019豊島PR映像』(短編)にて初タッグを組む。本作が長編初監督作品となる。

映画監督
山下 敦弘
YAMASHITA Nobuhiro
山下敦弘監督

1976年生まれ、愛知県出身。大阪芸術大学卒。『どんてん生活』(1999)、『ばかのハコ船』(2003)、『リアリズムの宿』(04)と“ダメ男三部作”をとっかかりに05年『リンダ リンダ リンダ』がスマッシュヒットを飛ばし、続く『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞などを受賞。キャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立していく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。その後も、宮藤官九郎脚本『1秒先の彼』(23)や野木亜紀子脚本による『カラオケ行こ!』(24)など。本作が長編アニメーションの初監督作品となる。

『化け猫あんずちゃん』

2024年7月19日(金)公開
監督:久野遥子/山下敦弘
原作:いましろたかし『化け猫あんずちゃん』(講談社 KCデラックス 刊)
キャスト:森山未來/五藤希愛/青木崇高/市川実和子/鈴木慶一/水澤紳吾/吉岡睦雄/澤部 渡/宇野祥平
制作プロダクション:シンエイ動画×Miyu Productions
脚本:いまおかしんじ
音楽:鈴木慶一
編集:小島俊彦
キャラクターデザイン:久野遥子
作画監督:石舘波子/中内友紀恵
美術監督&色彩設計:Julien De Man
色指定:横井未加
コンポジット開発:Guillaume Cassuto
撮影監督:牧野真人
CG監督:飯塚智香
音響監督:滝野ますみ
撮影:池内義浩
録音:弥栄裕樹
スタイリスト:伊賀大介
美術:龍田哲児
助監督:安達耕平
ラインプロデューサー:植野 亮
実写制作協力:マッチポイント
主題歌:「またたび」佐藤千亜妃(A.S.A.B)
プロデューサー:近藤慶一/Emmanuel-Alain Raynal/Pierre Baussaron/根岸洋之
製作:化け猫あんずちゃん製作委員会
配給:TOHO NEXT

インタビュー・構成:言問
撮影:栗原 論

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