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札幌の教育現場から海外へ。校長が訪れたVancouver Film Schoolの今

今回は、CG-ARTSの認定教育校「専門学校北海道サイバークリエイターズ大学校」(以下、サイバーズ)の橋本直樹校長が、2024年9月にMOU(教育連携協定)を締結した、映画・映像制作で国際的に有名なカナダの「Vancouver Film School」(以下、VFS)を視察訪問された様子をご紹介します。

VFSとの出会いと教育連携

サイバーズVFSの出会いは、今から遡ること6年前の2019年秋のことです。

本校は2017年から2019年にかけて、文部科学省委託事業として「北海道デジタルエンタテインメント人材育成協議会」を立ち上げ、北海道におけるデジタルメディア産業の発展を見据えた、産官学連携による人材育成を主導してきました。その一環として、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバーのCG産業、ケベック州モントリオールのゲーム産業における行政支援の現状について、現地調査・研究を実施しました。

この協議会にご参加されていた「カナダ政府札幌通商事務所」のご紹介により、当時CEDECで講演のために来日されていたVFSのスタッフが本校を訪問されたことが、両校のご縁の始まりです。訪問当日は、ゲームやCG関連の授業を視察いただき、さらに在校生が制作したゲーム作品の試遊やCG作品のプレゼンテーションをご覧いただきました。その成果に対して非常に高い評価をいただいたことが契機となり、両校間での教育連携の可能性を具体的に模索していくこととなりました。しかしながら、2020年2月に発生したパンデミックの影響により、その取り組みは一時中断を余儀なくされました。

ゲーム作品を試遊するVFSスタッフ

VFSスタッフに向けた授業の様子をプレゼンテーションしている様子

北のハリウッドの名門校VFSとは

VFSといえば、映画産業が盛んな「北のハリウッド(ノースハリウッド)」として知られるバンクーバーにおいて、歴史と実績を誇る名門校です。
 本校サイバーズでは、これまで3DCGを中心に、CGアニメーションやゲーム開発を手がけるクリエイターの育成に力を注いできましたが、映像産業全般にわたるVFSの教育ノウハウには、かねてより大きな関心を寄せていました。特に、VFXを含む映画・映像制作に関する高度な教育手法を本校のカリキュラムに取り入れることで、学生たちの学びの幅をさらに広げられるのではないかと感じていました。

3D Animation&Visual EffectコースのあるVFS校舎(元博物館)
人気の観光地であり、バンクーバー発祥の地といわれているガスタウン地区にある

VFSとの教育連携のはじまり

パンデミックも落ち着きを見せた2023年秋、改めて「カナダ政府札幌通商事務所」にご相談したところ、再びVFSとコンタクトを取ることができ、そこから教育連携に関する具体的な協議がスタートしました。さらに、2024年2月には駐日カナダ大使が本学園を訪問された際、「VFSは地元の誇る名門校であり、両校の教育連携を推進することは非常に意義深い。ぜひ実現に向けて尽力してほしい」との激励のお言葉を頂戴いたしました。
その後もZOOMによるオンライン協議を重ね、同年9月には念願のMOU(教育連携協定)の締結に至り、両校のパートナーシップが本格的に動き出しました。

両校の連携の第一歩として、まずはオンライン講義の共同実施が行われました。
 2024年10月には、VFSのCGアニメーションの専門家であり、3D Animation & Visual Effects コースの責任者を務めるコリン・ビーデル氏による「Principles of Animation(アニメーション12原則)」の特別講義を実施しました。

コリン氏のアニメーション12原則の授業の様子

さらに同年12月には、長年にわたり映画業界でVFXの分野に携わってきたキース・ブラックモア氏をお招きし、「The VFX(特殊効果技術の変遷)」と題したオンライン授業を提供いただきました。これらのテーマは本校でも既に扱っている単元ではありましたが、専門家による深みのある内容と現場に基づく知見に、在校生は大きな刺激を受け、非常に満足度の高い授業となりました。

キース氏のVFX授業の様子(質問をする本校学生)

続いて、2025年1月には私どもサイバーズからも、日本独自のアニメCG制作技法を紹介するオンライン授業をVFS在校生向けに提供しました。講師は、本校の国内教育連携先である株式会社ウタリカ取締役、かつ株式会社サンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏が務めていただき、「日本スタイルのアニメ制作」をテーマに講義を行いました。
授業当日は、日本特有のアニメ制作技法を学ぼうとする学生たちの熱意が画面越しにも伝わり、食い入るように講義へ集中する様子が大変印象的でした。

また、授業後に実施したアンケートでは、VFS在校生の多くがアニメファンであるだけでなく、アニメを通じて日本語を学んでいる学生も少なくないことが分かり、日本のアニメ文化に対する関心の高さを改めて実感する貴重な機会となりました。

松浦氏(下段中央)とVFS在校生(下段右)の授業の様子

このような経緯を踏まえ、2025年度の連携授業や研修旅行、さらには短期留学プログラムの実施に向けた協議を進めることを前提に、これまで一度も対面での協議を行っていなかったこともあり、2025年5月13日にVFS本校を表敬訪問する運びとなりました。

満を持してVFSを訪問

ここからはVFS訪問時の様子をご紹介します。

今回の訪問では、VFSが保有する4つの校舎のうち、提携が決定している、または連携予定の「3D Animation & Visual Effectsコース」と「Game Designコース」が設置されている校舎を中心に施設見学を行いました。
特に、この校舎は元々博物館として使用されていた歴史的建造物を活用しており、趣のある外観と最新設備が融合した特徴的な学びの場となっています。実際の授業や作品制作の様子を間近に見ることができ、現地で学ぶ学生たちの真剣な姿勢や、恵まれた学習環境を肌で感じる貴重な機会となりました。

博物館時代に、ブリティッシュコロンビアの先住民族の生活やゴールドラッシュ時代のカナダの歴史を表現していた部屋を、そのまま映画の撮影部屋として使用している。

卒業生が携わった映画やゲーム作品のポスターが、ほぼすべての廊下に展示されていた。

Game Designコースの授業見学

同コースは、カナダ国内の「ゲームデザインスクールランキング」において、2025年度に5度目の第1位を獲得するなど、非常に高い評価を得ています。現地では、3D Animation + Visual EffectsコースとGame Designコースの学生が合同でチーム制作を行うPBL(課題解決型学習)が盛んに推進されており、互いの専門性を活かした実践的な開発環境が整っていることが強く感じられました。
具体的には、3D Animation + Visual Effectsコースの学生がキャラクターモデリングやアニメーション、VFXを担当し、Game Designコースの学生が企画立案、レベルデザイン、プログラミングを担当する形でチームを編成しており、開発ツールとしてはUnityやUnreal Engineが多用されているそうです。

見学時には、学生たちが「Unreal Award」の受賞を目指して鋭意制作を進めている作品を紹介していただきましたが、制作期間がまだわずか1週間程度とは思えないほど、既に完成度の高いクオリティに大きな感銘を受けました。今後、約4か月をかけて作品を仕上げる予定とのことです。その後、完成したゲーム作品は、VFSが運営するウェブサイト「Indie Arcade」に公開され、学生自身のポートフォリオとして活用されます。

さらに、現地では「The Rookies Awards」など国際的なコンテストで数々の受賞歴を誇るほか、学内でも「Industry Night」や「Pitch + Play」といった業界関係者を招いた評価会が定期的に開催されており、こうした機会が就職活動へ直結する実践的なキャリア支援として機能している点も大きな特徴です。
最近では、在学中にわずか19歳でNintendo傘下の現地企業「Next Level Games」への採用が決まるなど、学生の高い技術力と即戦力としての評価の高さを物語っています。

上記の写真は、筆者がGame Designマネージャーのクリストファー・ミッチェル氏に説明を受ける様子です。
同氏は20年前に柔術の師範として日本に滞在していた経験があり、その後ゲーム業界へ転身。超多忙な現場でキャリアを積み重ねた後、子どもの誕生を機に、仕事と家庭のバランスを重視すべく14年前にVFSに参画されました。現在も現役のゲームクリエイターとして活動しており、VFS在籍中だけでも5本のゲームをリリースした実績をお持ちです。
現在はアメリカの企業が手掛ける、5,000万ドル規模のPS5向けタイトルの制作に携わっているとのこと。Unreal Engineの活用に長けており、プログラマブルシェーダー制作を得意とされる技術者でもあります。現役のクリエイターが、現場の知見を授業に直接還元している点は、VFSの大きな魅力の一つだと感じました。

3D Animation + Visual Effectsコースの授業見学

同コースでは、世界的なエンターテインメント業界で活躍できる人材を育成するため、実践力と業界との密接な連携を何よりも重視しています。
3Dに限らず、2Dデザインにも重点を置いており、見学時には液晶タブレットを駆使して、2Dルックのカートゥーン調作品を制作している学生の姿が印象的でした。また、校内では多様な国籍の留学生が集い、まさに世界中から才能が集まる学びの場であることを改めて実感しました。

各学生のデスクには、日本のアニメやゲームのキャラクターグッズが数多く並び、日本発のコンテンツが世界のクリエイターたちに多大な影響を与えていることを肌で感じることができました。2Dゲーム制作ではUnityを使用した開発も盛んで、前述のGame Designコースとの共同制作も数多く行われており、実践的かつ効率的なカリキュラム構成がよく理解できました。

VFSは「Animation Career Review」による世界ランキングで2020年に世界第1位に選ばれているほか、「The Rookies Awards」など国際的な学生アワードでも数々の受賞実績を誇ります。さらに、卒業生がアカデミー賞やエミー賞を受賞したプロジェクトに多数参画していることは、他校にはない大きな強みと言えるでしょう。

2Dデザインの授業の様子

見学した制作教室は、どの教室も薄暗い照明設定が施されており、作品制作に集中できる環境が整えられていました。
冒頭のMOU締結の記念写真にも登場している、3D Animation & Visual Effects コースのマネージャーであるコリン・ビーデル氏からは、直接コースの概要について丁寧に説明をいただきました。コリン氏は、25年以上にわたる豊富なアニメーション経験を有し、伝統的な2Dアニメーションから最新の3Dアニメーションまで幅広い技術に精通しています。さらに、「TED × Vancouver」での講演歴も持つ、国際的にも高く評価されている指導者です。
同氏は特にストーリーテリングを重視し、物語の構築やキャラクターの感情表現を深めることを核とした指導を行っており、その教育哲学は在校生たちの作品づくりの随所に息づいていました。

日本留学と日本就職の説明会

先に紹介した2025年1月に実施した松浦氏による講演において、日本での就労に関心を寄せる学生が多くいたことを受けて、急遽、訪問時のランチタイムの1時間を活用し、日本留学と日本就労の説明会を開催することになりました。日本の教育制度、とりわけ専門学校の社会的意義や卒業生の活躍状況、さらに日本での就労ビザ取得の条件、バンクーバー・東京・札幌それぞれの生活費や物価の違いなど、具体的な情報を共有する機会となりました。
説明を受けた学生の中には、より強い興味を抱いた様子が見受けられ、日本のアニメやゲーム業界でのキャリアを目指す志望者が今後さらに増えていく予感を感じました。

今回の視察を通して感じたことと、今後について

 1年間で6ターム制で実践教育を行うVFSのカリキュラムは、現場で現在も活躍するクリエイターたちが現場マネージャーとして監修・開発しており、その教材の奥深さと緻密さには感心させられるばかりでした。修了者には「Diploma(課程修了証書)」が発行され、世界のエンターテインメント業界への第一歩を確かなものとしています。
そして今回のMOU締結を機に、両校では以下の協議を推進していくことを改めて確認いたしました。

  • ZOOM授業の再開と継続
  • VFS講師の本校来校による集中講義の実施
  • VFXカリキュラムの一部導入の検討
  • VFSが開催するサマースクールへの本校学生の参加
  • VFS卒業生を本校で受け入れ、就労支援を行う取り組み
  • 本校による研修旅行の実施と、教育連携のさらなる深化

このMOU締結により、両校の関係が一層強化され、在校生にとってより価値ある学びの機会を提供できると確信しています。今回の訪問は、未来を見据えた教育連携の新たな一歩となりました。

バンクーバーの魅力

バンクーバーは豊かな自然と近代的な都市機能が見事に融合した都市であり、美しい海と山に囲まれ、四季を通じてアウトドアを楽しめるのが魅力でした。また、多様な民族が共生しており、異文化交流の機会が豊富です。治安が良く、公共交通機関も整備されているため、留学や観光、ビジネスにも最適な環境が整っています。暮らしやすさと活気を兼ね備えた、世界でも人気の高い国際都市だと思います。

VFSの紹介

Vancouver Film Schoolは1987年に12名による映像作成プログラムからスタートしました。
現在では15プログラムを約1200名以上の学生が学び、カナダ国内だけでなく世界中のエンターテイメント業界へクリエーターを送り出しています。プログラムはいずれも短期集中型で実践的な知識やスキル身につけることができます。毎年、数々の賞を受賞しているVancouver Film Schoolの背景には強い業界プロフェッショナルとのネットワーク、最新の機材と現役で活躍する講師陣があります。

VFSと留学についてのお問い合わせ

岩中 さや香(いわなか さやか)
Vancouver Film School事務局(日本語対応可)
メールアドレス :siwanaka@vfs.com
Webサイト  :https://vfs.edu/

取材・文・写真:橋本直樹(専門学校北海道サイバークリエイターズ大学校 校長)
企画・編集  :篠原たかこ(CG-ARTS 事務局長)、宮内舞(CG-ARTS 教育事業部)

橋本直樹氏 プロフィール
北海道札幌市にあるゲーム・CG・IT・先端技術分野の実践教育を行う「専門学校北海道サイバークリエイターズ大学校」の校長職。
実践的な教育を通じて業界と連携した人材育成に尽力。札幌市映像活用推進プラン改訂委員長も務め、地域と連携した教育・産業振興にも貢献している。

公開日:2025年7月7日

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