この企画は、株式会社エモリアの半杭政弘さんから「アニメーションに関するワークショップを実施したい!」というご相談をいただいたことからスタートしました。半杭さんは、日頃からX(旧Twitter)でアニメーションに関する知識について情報発信されており、教育普及や業界の発展に想いを持って活動をされています。
アニメーションにご興味のある方や学習者のみなさんは、ぜひチェックしてみてください!
CG-ARTSでは、毎年開催している「アニメーション実技試験」を通じて、アニメーションの学びの場を提供してきました。そうした背景もあり、今回の半杭さんからのご提案には深く共感し、「プロ・アマ問わず、アニメーション技術の向上を目指す人たちが集まる“道場”のような場をつくりたい!」という想いのもと、実現に向けて共に準備を進めてまいりました。
前半:レクチャータイム!観察のポイントと、重心の捉え方
「ちょっと待った!」~観察編~
「狙いが伝わるアニメーションが作れるように」「違和感のないアニメーションを作るために」日常の観察から気づきを得るための講義から始まりました。
人の脳は意外とアバウトで、見たものをゆがめて認識しまったり、見たいものだけをみてしまったりするので、正しく「観察」をすることは意外と難しいとのこと。人は、脳容量の10%しか視覚に使っておらず、そのうえ、実際に認識している情報は、全体のわずか4%ほどだそうです。だからこそ観察において重要なのは「観察する焦点を絞る」こと。そのうえで、仮説を立てて実際に動いて確かめることで、「言語化・分析・まねる」力が育まれます。

「ちょっと待った!」~ポージング・重心編~
続いては、静止した状態の本質を理解する講義へ。
アニメーションはポージング(ブロッキング)から始まるため、ここがおかしいと違和感に繋がってしまいます。最も肝心なのが「重心」。講義では、重心を理解するためのキーワード「支持基底面」について解説が行われました。支持基底面とは、地面に接している足の範囲のこと。重心は基本的に、この範囲の中に収まるそうです。

さらに、「重心ライン」(支持基底面内の重心位置から垂直に上がるライン)についてもレクチャーが。体の面積は、重心ラインを中心に左右で半々になるとのこと。しかし、手や足を突き出すポーズの場合、バランスを取るために体の面積が半々でなくなることもあるそうです。

小学校5年生あたりで習う「天秤のつり合い」の知識。その知識をポージングに上手く活かせていますか?という問いかけには、思わず「なるほど…!」と、うなってしまいました。
後半:チームでワークショップ!チームで動きを観察しよう!
さて実際はどうだろう?ということで、後半戦では3人1組のチームになって、1人が動き、2人が観察し、これをローテーションしながら意見を交換しました。
半杭さんから、このときの心構えも教えていただきました。
・動く側は相手に伝わるように真剣に、ただし無理はしない!
・観る側は真剣に観察し、観る位置を変える!
・そして、終了時には感謝と健闘を称えて拍手!!
動く側、観る側の互いにリスペクトが生まれ、参加者同士で意見が好感しやすい場となりました。
数種類の動作を実践しましたが、ここではいくつかピックアップしてご紹介します。
★「可動域」の観察
手を前後左右に動かして、それぞれの可動域を確認。筆者も実際に体験してみたところ、想像以上に多くの発見がありました。


自力で動かせる範囲↑
外から力を加えた場合の範囲↑
気が付いた点
・自力のみでは意外と動く範囲が狭い。力を加えると可動域が広がる。
・体の末端ほど弓なりにしなって曲がる。
・手を左右にひねると、腕全体が連動して動く。
・手を前後に曲げる動きは、手首単体でも動く。 などなど
★「重心」の観察
講義で学んだ「支持基底面」や「重心ライン」が、本当に身体のバランスに影響しているのか、実際に体を動かして観察しました。
片足立ちやつま先立ちなど、いろいろなポーズを試しながら、支持基底面と重心の関係を体感。重心が支持基底面の外に出ると、途端にバランスが取りにくくなり、倒れてしまったり、どこかに無理な力が入ってしまったりすることが分かりました。
特に、何かを持っているときや、手足を広く突き出したりするときなどは、重心をよく考えて表現する必要がありそうです。
参加者からは「ここ、めっちゃ力が入ってるよ!わかる?」「ここが重心かな?」といった声があがり、チーム内で気づきを共有する場面が多く見られました。
普段は無意識に動かしている自分の体も、こうしてじっくり観察してみると、「思っていたより動かない!」「ここを動かすと、ここも連動する!」など、次々と新しい発見が。
こうした観察や気づきの積み重ねこそが、アニメーションの基礎力を支えるのだと実感しました。




さて、これらのポーズの支持基底面と重心位置はどこでしょう?
ワークショップ終了!懇親会でわいわい
ワークショップが終わった後は懇親会!
プロアマ問わず、同じ志を持つ同士でアニメーションの議論が交わされていました。
CG-ARTSで開催している「アニメーション実技試験」の参加者の方も数名おり、学生同士の意見交換も目立ちました。また、業界でアニメーターとして働く方たちとの交流や、ポートフォリオを持参して積極的に意見を聞く方も見られました!


ワークショップを終えて
今回のワークショップは、ソフトを操作するのではなく、「実際に体を動かす」ことでアニメーションの本質を理解し、制作時の意識を深める内容でした。
筆者自身も、理論を踏まえた上で身体の動きを観察していくことで、アニメーションの見え方がより深く、より面白く感じられるようになったと思います。(ちなみに筆者は絵を描く側なのですが、今回学んだ“重心”や“支持基底面”の知識は、キャラクターのポーズ付けにすでに大いに役立っております…!)
CG-ARTSは、今回のワークショップに事務局として協力・参加させていただきました。
そしてなんと、エモリアさんでは早くも第2弾の構想がある!とのこと。新しい知識や気づきを得られる場を、また一緒につくれることを、事務局一同楽しみにしています。
エモリアのみなさま、素晴らしい機会をありがとうございました!
そしてご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました!

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