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エンターテインメントとアートの幸せな関係 見里朝希(後編)

2026年4月から放映が始まったストップモーションのTVアニメ『キャンディーカリエス』。同作を制作中の見里監督にお話をお聞きしました。
後編では『PUI PUI モルカー』のTVアニメ化による社会的なヒットを経て、個人作家としてのスタイルを保ちながら、チーム制作をどう実現したのかを振り返っていただきます。
これからアニメーションの世界に飛び込む人たちにとっても示唆に富む、創作のヒントが盛りだくさんのインタビューです。

少人数、小スペースで取り組んだ『PUI PUI モルカー』

大学院を出たあとTVアニメ『PUI PUI モルカー』(以下、モルカー)を発表されます。社会現象的なヒットとなり、第25回文化庁メディア芸術祭ではアニメーション部門にてソーシャルインパクト賞を受賞しました。ご自身の意識としても、つくり手としてのステージがまた変わったのではないでしょうか。

『モルカー』から大きく変わったのは制作環境です。はじめた時は自宅付近のアパートを借りて、数人のスタッフを集めて6畳の部屋でつくっていました。
『PUI PUI モルカー』

『PUI PUI モルカー』制作の様子
©見里朝希/PUI PUI モルカー製作委員会

制作メンバーはどうやって集めたのですか。

大学院時代の同期生と友人に声を掛けたのと、映画祭で出会った人たちもアニメーターとして迎えました。さまざまな映画祭でのアニメーターとの交流や学生CGコンテストでの縁など、人から人につながっていきました。 『モルカー』の後に、WIT STUDIOと一緒にストップモーションスタジオ「TOROKU」を立ち上げることになり、Netflixで配信した『My Melody & Kuromi』(2025)を制作したのですが、一気に膨大な作業に対応できる環境が整いました。 『モルカー』ではスタッフは十数人でしたが、『My Melody & Kuromi』は、外注の人も入れて最終的に100人を超える所帯になりました。

『My Melody & Kuromi』
Ⓒ’26 SANRIO

メイキング映像 WIT STUDIOのYoutubeより
Ⓒ’26 SANRIO

ずいぶん規模が拡がりましたが、どんな運用になるのでしょうか。

人数は基本的にブース単位で考えます。1ブースで1カットずつ撮ります。『モルカー』のときは十数人のアニメーターが最大4ブースで動いていました。6畳の部屋を4部屋使って、なんならアニメーターの自宅でも撮影してもらったりして……。いまの「TOROKU」では常時7、8ブースで並行して撮影することを想定しています。

スタッフが増えることで変わったことはなんですか。

人が増える分、ディレクションには苦労するようになりましたね。こうしたいという指示が伝言ゲームのようにズレてしまうこともありますし。自分にとってもWIT STUDIOにとってもストップモーションのスタジオを開設することは初めてだったので試行錯誤はありました。非効率な方法だと思ったら都度調整して、徐々に体制を固めていった感じです。結果的に『モルカー』の前はフリーランスで、単発の仕事もよくやっていたのですけど、いつの間にかたくさんの人に指示をする「監督」の立場になっていました。

愛されるキャラクターの法則

バジェットが大きくなってからつくり続けるためには、商業的なハードルもクリアしないといけないですね。

どうやって見た人たちに好きになってもらえるかで、最近思ったことがあります。まず子どもに好きになってもらいたい。そのために、『モルカー』でも『キャンディーカリエス』でも、キャラクターは子どもが絵に描きやすいデザインに落とし込むようにしているんです。古今の印象に残るキャラクターは、マルやサンカク、シカクといった幾何図形のシンプルな形をベースにしているのではないかと仮設を立てて、キャラクターデザインを調べたりもしました。 また、グッズとして持ち歩きたいかどうかが、魅力を測る一つの判断基準になるのではないかと。自分が欲しいかはもちろん、これを欲しがる人がいるイメージが持てるかは、キャラクターデザインで特に意識しています。そういう意味ではストップモーションは、あらかじめ「もの」としてあるわけだから、他の手法よりも有利じゃないかと思います。

『キャンディーカリエス』

手づくりの価値を伝える『キャンディーカリエス』

『My Melody & Kuromi』でサンリオキャラクターを扱うお仕事をされたあと、待たれていた新作『キャンディーカリエス』(2026)では、学生時代の技法にふたたび光をあてることになりました。先ほどお話いただいたように、WIT STUDIOとのやり取りの中で出てきたアイデアなんですね。

「平成レトロ」をテーマに新しいカットアウトアニメーションをつくろうと始めましたが、つくっていたら、たまたまボンボンドロップ[1]が流行ったり、平成のポップカルチャーのリバイバルも追い風になったりと、本当にタイミングが良かったです。
プラバンのぷっくりとした質感をイメージした世界観ですが、そもそも学生自体に作品の素材として扱う以前、幼少期に実際プラバンで遊んでいたので、同じような経験をもった人たちにも、ものづくりの楽しさを思い出してもらえる作品にできたらと思っています。

鑑賞する側の、ものづくりの記憶も刺激するように意図されたのですね。

今の時代はAIで誰でも手軽にクオリティの高い映像をつくれるようになりました。でもこういう時代だからこそ、手づくりの価値が逆に上がっていくと考えています。 これまではストップモーションを撮る時に、映り込んじゃいけない埃などは神経質にポストプロダクションで消していましたけれど、『キャンディーカリエス』ではハンドメイド感のために、あえて残す判断をする場面もあります。きれいにつくり込みすぎるとCGに間違えられてしまって、もったいないんです(笑)。
撮影に使用するキャラクターのパーツ
『キャンディーカリエス』制作の様子

[1]クーリアが開発・企画し、サンスター文具が販売する、ぷっくりと厚みのある立体シール。キャンディーのようなツヤが特徴。2024年発売開始。

「可愛い×怖い」の掛け合わせとギャップ作戦

お話をうかがっていると、見里監督は「創作のルール」を決めておられるのではと思うのですが、意識しているものはありますか。

掛け算でアイデアを考えることは意識していますね。ギャップを感じる要素をつくりたいと思っていて、ただ可愛いだけではない「可愛い×○○」を意識しています。影響を受けた作品でも『パワーパフガールズ』は幼稚園児の活躍する世界だけど街の治安が悪いとか、『おくびょうなカーレッジくん』も見た目は可愛らしいけど物語や敵キャラはホラーに寄っていて結構怖いみたいな。 特に怖さについては通底するテーマで、昔から怖がりで、『スーパーマリオ64』(1996)のバッタンが、途中でゲーム放棄するぐらいに怖かったりしました。ああいう得体のしれない怖さは好奇心をくすぐるものでもあって、物語に引きつける力にもなり得ると感じています。

今回の『キャンディーカリエス』ではどんな「可愛い×〇〇」を設定されているのですか。

今作に関しては、可愛いと「親子」というテーマとを掛け合わせています。カリエスは虫歯を擬人化したキャラクターで、アメよりも年上に見えるのですけど、虫歯にとってその宿主はお母さんみたいな存在で、これは家族の物語でもあるんです。だから見た目と逆転した親子関係もまたギャップになっています。
撮影に使用するパーツ。アイテムごとに整理されている

なるほど。そう聞くとふたりの造形のバランスも絶妙ですね。

見た目でいうと、じつはパイロット版のカリエスはもっとリアルでセクシーなイメージだったのですが、先ほど話した子どもでも描きやすいかどうかと、グッズとして持ち歩きたいかといったことなどを検討して、形を幾何図形で整理することになったんです。 また、フェルトやプラバンといった作品ごとの素材についても、どうしてこの物語にこの素材を選ぶのかは必然性があるように考えています。

これまでのキャリアでさまざまな技法、素材を試されてきましたが、今後挑戦したいものはありますか。

ロウソクのロウは、チャレンジしたいと思っています。熱で溶ける表情に可能性があるのではないかとアイデアを練っています。いつ実現できるかはまだわからないのですが。

臆さず人に見せること、ふり返らないこと

自身のキャリアを振り返って、あのときに取り組んでよかったと思えることや、これからアニメーションづくりに関心をもつ若い人にアドバイスできることはありますか。

卒業制作は大切だったと実感しています。『あたしだけをみて』はいまも話題にあがることがありますし、ずっとその人の「顔」になり続けるので、妥協せずにつくるべきです。 そして、つくるだけではなくて、恥ずかしがらずに発表すること、とことん応募すること。自分も学生CGコンテストや文化庁メディア芸術祭に応募して、その当落の結果や審査講評を聞くなかで、おのずとやりたいことが見えてきました。 賞には、本当に片っ端から応募したんですよ。『マイリトルゴート』は全部で35個の賞を受賞しました。

相当な数ですね!

はい、大きな賞もいただきましたが、その何倍も落選しているんです(笑)。でもたとえ落ちても、審査員の目には留まるわけじゃないですか。そのうちに、向こうの方から作品を上映させてくれませんかと連絡が来たりもしました。宣伝活動でもちろんSNSを活用するのもありだと思いますけれど、コンテストの方が確実にプロのクリエイターが見てくれるし、しかも直接面と面で向かい合っての交流もあるので、その後の仕事にもつながりやすいんじゃないかと思います。学生で、恥ずかしいから作品を応募しない人はたくさんいますからね。 それと、とにかくつくっている最中は悩まないことですね。悩むことに時間かけすぎてしまうのはもったいない。とくかく進む。自分が面白いと思ったことに関しては、周りに流されず、最後まで貫いた方がいい。それがこれまでアニメーションをつくってきて得た実感です。

『キャンディーカリエス』
ⒸTomoki Misato/WIT STUDIO/トゥースフェアリーズ

前編はこちら

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プロフィール
アニメーション監督
見里 朝希
MISATO Tomoki
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東京藝術大学大学院の修了制作『マイリトルゴート』(2018)で第24回学生CGコンテストでアート部門、エンターテインメント部門最優秀賞のダブル受賞ほか、国内外で評価される。TVアニメ初監督を務めた『PUI PUI モルカー』を2021年発表、同年WIT STUDIOとTORUKUを発足。2025年にNetflixシリーズ『My Melody & Kuromi』、2026年にTVアニメ『キャンディーカリエス』を監督。

『キャンディーカリエス』
2026年4月15日(水)からTBS『よるのブランチ』内にて放送中
放送終了後にYouTube(www.youtube.com/@candy_caries)にて全話無料配信
原作:見里朝希/WIT STUDIO
監督:見里朝希
副監督:森井ケンシロウ
脚本:西中千晶
編集:齋藤朱里
音響監督:えびなやすのり
音響制作:サウンドチーム・ドンファン
音楽:帆足圭吾
アニメーションプロデューサー:山田健太
アニメーション制作:TORUKU from WIT STUDIO
製作:トゥースフェアリーズ

公開日:2026年7月21日

構成:言問(こととい)
撮影:畠中 彩

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