本フォーラムは、CG、映像、芸術、科学の融合領域における研究発表を行う学術イベントで、映像情報メディア学会、画像電子学会、芸術科学会、CG-ARTSの4団体により共催されています。
例年3月に開催され、学生にとっては卒業研究・修了研究の発表の場としても重要な機会となっています。
本年は、口頭発表59件、ポスター発表80件の計139件の発表が行われ、多彩なテーマによる研究発表が展開されました。
終了後の懇親会では、優れた発表に対する表彰も行われ、学会賞や企業賞が授与されました。
特別講演
映像制作のリアルタイム転回―仮想空間は撮影現場になり得るか!
バーチャルプロダクション以後の制作・空間・主体の再定義
今回ご登壇いただいた金子元隆氏が率いるスタジオブロスは、バーチャルプロダクション(VP)・リアルタイムCG・デジタルツイン技術を専門とする、Sony PCLグループの映像技術制作会社である。
NHK歴史ドキュメンタリー・大河ドラマ、自動車メーカーCM、自治体デジタルツインプロジェクトなど多分野の案件を手がけ、Epic Games・NVIDIA・AWS・SMPTEの各認定資格を保有する高い技術基盤を強みとしている。
LEDウォールを駆使したバーチャルプロダクションを筆頭に、ゲームエンジンによるリアルタイム制作ワークフローを業界に先駆けて構築してきた。
制作工程の効率化と映像表現の高度化を同時に実現し、放送・広告・自治体案件を横断して実績を積み重ねている。
また、人材開発にも積極的に取り組み、現場で培った知見を教育・研修に還元することで、次世代クリエイターの育成と組織全体の力の底上げを図っている。
「何が変わったのか」―制作構造の転換
本講演で金子氏は、ゲームエンジンやバーチャルプロダクションといった技術の紹介にとどまらず、「何ができるようになったか」ではなく「何が変わったのか」という視点から、映像制作の本質的な変化について語った。
金子氏はまず、フィルムからデジタル、そしてリアルタイムCGへと至る流れを踏まえながら、今回の変化は単なる技術革新ではなく「制作構造そのものの転換」であると強調する。
その論拠はトーマス・クーンのパラダイムシフト論を下敷きにしており、量的変化の蓄積がある臨界点を超えた瞬間に不連続な質的転換が生じるという論理を、映像制作の歴史的変容に重ね合わせたものだ。
またドナルド・ショーンの「省察的実践者」概念も援用され、リアルタイム技術の環境下では制作者が「行為しながら省察する(reflection-in-action)」という新たな主体様式へと移行しつつあることが示された。
技術の変容は、それを扱う人間の認識と実践のあり方そのものを問い直す契機でもある。
従来の映像制作は、プリプロダクション、撮影、ポストプロダクションが直線的に進む“待つ構造”であり、各工程の間には不可逆的な遅延が存在していた。
同時進行化する制作と現場の変容
しかしリアルタイム技術の導入により、これらの工程は同時進行へと移行し、プリビズ・撮影・ポスプロが一体化する環境が実現しつつある。
この変化は、単なる効率化ではなくパラダイムシフトである。試行(トライ)と判断(ディシジョン)が同時に発生し、制作の現場では反復回数が飛躍的に増加する。
たとえば、従来であれば時間とコストの制約から限定されていた試行も、ゲームエンジンの活用によって1日に数十回単位で繰り返すことが可能となり、完成度を高めるプロセスそのものが変化している。
また、「CGは後で直すもの」という従来の考え方も大きく変わりつつある。
CGは事前に準備され、撮影現場で即座に確認・調整される存在へとシフトしている。
実際の現場では、監督が直接CGに指示を出し、その場でビジュアルを確認しながら制作を進めるケースも生まれており、物理的な撮影とデジタル表現の境界は急速に曖昧になっている。
「計算する芸術」への転回と表現の再定義
さらに、リアルタイム環境においては、光・空間・カメラといった要素がすべて「計算可能なパラメータ」として扱われるようになる。
これは撮影手法そのものの転回を意味し、映像制作は「待つ芸術」から「計算する芸術」へと変化していると金子氏は語る。
こうした変化により、監督やクリエイターの役割もまた、より統合的かつ即時的な意思決定を担うものへと変わっていく。
スタジオブロスでは、こうしたリアルタイムCGやバーチャルプロダクションの実践知をもとに、教育カリキュラムの構築にも取り組んでいる。
現場で求められるのは、単にツールを扱うスキルだけでなく、実際に“ものを作る力”と、それをデジタルへと翻訳する力の両立である。
従来の美術や造形の知識とも連動しながら、新たな制作能力が求められている。
人材育成とこれからのクリエイター像
最後に金子氏は、これからの人材像について言及した。
かつては「絵が描けること」が前提とされる場面も多かったが、現在ではAIなどのツールを活用することで、自らの弱点を補いながら目指す表現に到達することが可能になっている。
重要なのは、自身の強みを見極め、最終的なアウトプットを具体的にイメージし、不足する要素を適切な手段で補完していく力である。
そうした総合的な実現力こそが、これからのクリエイターに求められる資質であると締めくくられた。
スタジオブロスが提示したのは、単なる技術の進化ではなく、映像制作の在り方そのものを問い直す視点であった。
リアルタイム技術を軸に、制作プロセスと表現の関係を再構築し続ける同社の取り組みは、今後の業界全体の指針の一つとなっていくだろう。
VP・リアルタイムCG・デジタルツインの実践を積み重ねながら、放送・広告・公共と多領域への価値提供を続けるスタジオブロスのさらなる展開に、大いに期待したい。
今後もCG-ARTSは「映像表現芸術科学フォーラム」を応援して参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。